滝本 誠 (評論家)

こちらが地方の高校生で「美術手帖」、「芸術生活」、「芸術新潮」などを読んでいたころ、ハイレッドセンター、篠原有司男などとともに、荒川修作の名前はよくみかけたが、上京したときはすでにニューヨークに渡られ、コンセプチャルな図形と言葉がカンヴァスを繊細に埋めていた。こちらは詩人にして美術評論家=瀧口修造にあこがれ、彼の書くものによって現代美術の世界に足を踏み入れたから、荒川修作の名前は親しいものとなった

1968年に刊行の瀧口の自費出版『デュシャン語録』は大学1年の時、アルバイトをして金を貯め何とか500部限定の431を手に入れることができた。これにデュシャン、ティンゲリ-、ジャスパー・ジョーンズ作品とともに収められていた色彩版複製が荒川の「静物」であった。

深い青に横縦にグリッドが入り、中央の線が赤、黄、青の原色が散る形で線が引かれ、その線上にA LINE IS A CRACKの文字。この作品はとても好きだ。山岡信貴監督の『死なない子供、荒川修作』には、渡航する荒川を送る瀧口の写真が挿入されている。

実は帰国後の展開は余り詳しくなく、天命反転住宅が東八道路沿いにカラフルな姿を見せたときも、ただただ隣のパン屋さんにきたついでに唖然としつつ、誰が住むのか?とのぞき魔のようにうかがう日々であった。映画では実際の居住者の方々が登場、その体験をそれぞれの言葉で語っている。これを観たあとはテーマパーク「養老天命反転地」に行ってみなくてはなるまい。しかし、アイデアを現実のものとして周りを巻きこんで完成させた荒川の人間的魅力に感服。